「お前の望みを言ってみろ」

イリアのまとう気ががらりと変わった。
気がつけば、態度も言葉遣いも別人のようだ。
お互いの立場が逆転していることに、ローズは内心とまどっていた。

「俺と取引がしたいんだろ?」

傲慢な仕草が呆れるほど絵になる少年は、ローズを見つめ微笑んだ。
不敵な、そして優美な微笑みに、少女は思わず目を見張る。

イリア・アルフォンソと言えば、母親譲りの美貌とは裏腹に、愛想のかけらもないことで知られている。

皮肉な笑みと、取り付く島のない無表情と、不機嫌な眼差しと……。
ローズ自身も、そんなイリアしか見たことがなかった。
そしてそのことが、「真紅の薔薇」とうたわれた高貴な美女の自尊心を、少なからず傷つけてきたのだ。