(あいつか絡むと何一つうまくいかない)

だが、今回のことは怪我の功名と言えそうだった。

地下室の見張りをしていた甲冑の兵士が、クリムゾン・オーツであることに、イリアはとっくに気づいている。

階段でよろめいたイリアの腕を、兵士はごく自然に掴んで引き上げた。
その瞬間、相手が誰なのかがわかってしまった。

(ユーリのことは、クリムゾンに任せておけばいい)

少なくとも、カリノ家に取り込まれるよりは安心だ。

そう結論づけたところで、疲れがどっと出た。
壁に体重を預けたまま、荒い息をついた時、侍女との内緒話を終えたローズが戻ってきた。

「顔色が悪い。何かよくない知らせでも?」
「あ、あなたには関係なくってよ」

何気ない口調で訊ねると、ローズは即座に否定した。
だが、動揺しきった言葉が、全てを物語っている。

ユーリはもうここにはいない。
そしてこの女は、ユーリの命と引き換えにしなくては、イリアが動かないと思い込んでいる。

イリアは笑い出したいのを何とかこらえ、侍女の足音が去るのを待ってから、さっきまでローズが座っていた目の前のソファーに身を沈めた。