「あら、笑っていらっしゃるの?」
ソファーに優雅に身を沈めた美女は不思議そうに眉根を寄せている。

「一体、何がおかしいのかしら」
不快げな口調で告げられて、イリアは笑みを深くした。

「妙な取引などしないで、俺のことはさっさと殺しておいた方が身のためだぞ。それはそうと、カリノ家を真っ先につぶさなかったのは失敗だったな」

「でも、ちっとも悔しそうじゃないのね」
「妻に再会できたからな」
「心にもないことを! あ、あなたは、一度として・・・」

立ち上がった女の顔を、イリアが無表情に見上げた時、控えめに扉を叩く音した。
入ってきたのは、ローズがイリアのもとに嫁いできた時に、ローズに付き従っていた侍女だった。

一切の装飾を配した灰色のドレスを着て、目を伏せたまま入ってきた娘が、部屋の主に何事かささやくのを眺めながら、イリアは地下室に残してきたユーリのことを考えていた。