身じろぎした途端、慌てたように伸びてきた手。
その手を払いのけ、痛みに顔をしかめながら、強引に半身を持ち上げた。

「いつまでここにいるつもりだ!? 頭を使え! 逃げる算段をしろ! 俺が見張りを引き付けるからその隙に……」

「そんなことより、お薬を」

「薬など無意味だ」

呟いた途端、ユーリの顔が悲しげに歪む。
ぎりと歯をならしたイリアは、ユーリの顔から目を逸らしたまま、よこせと手だけで合図した。

祈るようなな面持ちで差し出されたそれを奪い取り、一気に喉に流し込むと、予想をはるかに上回るまずさだった。

「……吐く……」

「だめです! がんばって飲んでください!」

(こんなまずいものをか?)

「絶対効きますから!」

(きかないとわかっているのに?)

青白い顔で口元を押さえつつ、イリアはぼんやりと考える。

ユーリはどうしてこんなに一生懸命なのだろう。

罪を背負って生まれ、死ぬためだけに生きてきた。
そんな人間を、どうして生かそうとするのだろう。