「私と取引をしませんか?」
「え?」
「あなたが私のものになるというのなら、この方の命を助けましょう」

「あなたはイリアの従者でしょ! 主を助けるのは当然ではありませんか!」
咎めるように告げられて、グノーは肩をすくめてみせた。

「すぐに答えを出せとは言いません。時間を差し上げます。この方が自分の足で歩けるようになるまでに答えを出していただけますね?」

「ノーと言ったら?」
「その時は、イリア様ご自身の足で刑場に上っていただきます。戦好きで冷酷非情とされるイリア・アルフォンソが、二十歳にもならぬ若者だったというのは仕方ないにしても、自分の足で歩けないほど弱っていたのでは、民衆の同情を引きかねない」

「イリアは戦好きでも冷酷非情でもないわ!」

いったん離れた剣をまた向けられて、グノーは思わず噴き出しそうになった。

アルミラの王族や貴族の中には、こんなに単純で素直な人間は一人もいない。

「怒らないでください。そんなことは、誰よりも私自身がよく知っている。だが、妙な噂を流したのは、他ならぬ本人だ。あなたが現れなければ、アルミラ最後の王は、今日のうちに革命軍に捕らえられ、刑場に引き立てられ、民衆が見守る中で処刑されるはずだった」