戦好きで残虐な大国の王。

その王の妾となった亡国の王女。

その王女を愛した第一王子。

狂死した王女が生んだ子供の父親が誰なのかは、言うまでもない。

信頼していた第一王子に毒を盛られ、利用されつくした上に殺された王。

こんなことは、もう、たくさんだ。
負の連鎖を終わらせなければならない。

イリアが持参した毒入りのワインを、キリシュは無言で飲み干した。

たぶん、何もかも、知っていた。
知っていて、受け容れたのだ。

ずっとキリシュを憎んでいた。
いつかは自分の手で殺すと決めていた。
だが、この空しさは何なのか。

狂える者はいい。
狂気の中で死ねる者はまだましだ。

「兄上、私はあなたが狂っているのだと思っていました。でも、そうではなかったのかも知れない。あなたは母上を愛しすぎてしまったのですね? そして、母上もあなたを……」

独り佇むイリアの頬を涙が伝う。

弟であり息子でもある少年を陵辱し続けた男は瞑目したままで、答えは返ってこなかった。