「イリア様のなさろうとしていることが、私には理解できません! あなたなら、いくらでも立派な王になれるのに!」

漆黒の瞳は何も語らない。
その代わり、少年の手がゆっくりと持ち上がり、壁の一部を指差した。

クリムのいる位置からは、死角になっていたその場所には、一幅の肖像画がかかっていた。

多分に幼さを残した美しい少女が、じっとこちらを見つめている。

よく見る肖像画と違い、少女は微笑みを浮かべてはいなかった。

喪服を思わせる黒のドレス。

だが、喪服ではない証拠に、少女の胸元には、大粒のエメラルドを所々にあしらった金のネックレスが飾られていた。

クリムゾンは、「あっ」と声をあげそうになった。
似ているなんてもんじゃない。
少女の瞳は、その絵の傍らに立つ少年の瞳と同じものだ。