黒王子と銀の姫

ソーサーにカップが戻されるカチャリという音。
考え事を打ち切った王子に名を呼ばれ、グノーは無意識に身構えた。

「死体で見つかった者、処刑された者、あるいは、捕虜として捕られた者の中で、銀髪と濃紫の瞳を持つ者について調べあげた」

淡々と告げる口調にはよどみがない。

身を乗り出した従者の眼前に、イリアは広げた羊皮紙を突きつけた。

「銀の髪と紫の瞳を持つ貴族は、王家とそれにつながる一門に限られる。そしてその中で現在行方不明になっている十歳前後の少年は一人しかいない」

「それ」を凝視するグノーの喉がごくりと上下した。

赤い線で囲まれているのは、リタニアの第一王子、今年九歳になるソニー・スタインベルグの名前ではないか。