よろい戸を激しく叩く雨の音を聞きながら、ユーリは苦渋の面持ちで唇をかみしめた。

ユーリの話を最後まで聞き終わったシンシアを驚きは大変なものだった。

つまり、妙な噂が真実として、市民権を得ているということだ。

ユーリの胸には釈然としないものが渦巻いていた。

あれほど情報通のイリアが、噂を知らないはずはない。
知っていて、敢えて無視しているのだろうか。

「そんな馬鹿な!」

自分で自分の考えを否定して、ユーリはベッドから飛び降りた。
人心を操って、敵城を半日で落とした人が、噂を軽視するはずがない。

大きなプラタナスの木が、窓に向かって枝を伸ばしていたことを思い出し、ユーリは窓辺に駆け寄った。

12歳から五年間、男のふりをして暮らしていた上に、クリムゾンに剣術で鍛えられた。
シンシアの前ではおとなしくしているが、木に飛び移って外に出ることなど造作もなかった。

(でも、イリアに会ってどうするつもり?)

またもや、思考の堂々巡り。

首をひとふりして、よろい戸に手をかけた。

窓を開けたのは、部屋を抜け出すためでなく、頭を冷やすためだった。

夜気と一緒に勢いよく雨が振り込んでくる。

思わず閉じた目を再び開けた時、懐かしい顔が目に飛び込んできた。