「でも、真実は違っていたのかも知れません。ユーリ様のせいではなく、グレアム様ご自身が、あなたのお傍を離れ難かったのかも知れなくて……」

ユーリが立ち上がったことで、はっと我に返ったシンシアは、くずれるように床に頭を擦り付けた。

「も、申し訳ございません! このような無礼を申し上げるつもりは……。ユーリ様もご苦労なさったのに、敵国に囚われ、あの悪魔の申し子と噂される黒の王子に監禁され、どれほど辛い思いをされたことか……」

(悪魔の申し子? 黒の王子に監禁?)

当たり前のように告げられて、ユーリは一瞬ぽかんとなった。

「今の言葉はどういう意味? 黒の王子って、まさか……」

「もちろん、アルミラの第四王子、イリア・アルフォンソのことですわ。捕虜になったリタニアの主だった貴族がことごとく処刑されてしまったのは、王子の命によるものです。庭師や毒見役の少年の首を気まぐれにはねたり、美しい少女をさらっては、地下室で拷問にかけて殺したり、ひどい浪費家で、そうそう男色家という噂も……」

「ちょ、ちょっと、待って!」

急に能弁になった相手を、どうにかこうにか黙らせた。

ショックのあまり肩で息をしながら、ユーリは相手の顔を覗き込んだ。