「そういえば、リタニアの主だった貴族の系図をお取り寄せになられたとか」

「よく知っているな。リタニアに送り込んでいた間者に命じて作らせたものだ。一人ひとりの外見的特徴まで整理されていておもしろいぞ」

王子はライティングデスクに歩み寄り、その上に、何らかのルールで振り分けられた書類の中から、羊皮紙の束を拾い上げた。

言葉の通り、どこかおもしろそうに紙面を覗き込んでいる少年の顔を見つめながら、グノーはさらに言葉を紡いだ。

「実は、噂を聞きつけた軍の連中から、その系図をお借りできないかという話がきているのですが・・・」

「どうせ、捕虜の拷問のネタに使うつもりだろう。いちいち相手にすることはない。そんなことより、あの子供、年はいくつだと思う?」

「あの子供って、イリア様が戦場で拾った、あの子供ですか?」

「他にどの子供がいる?」

(年齢だけなら、イリア様も子供という他ないが)、

浮かんだ思いを飲み込んで、従者は首を横に振った。

「そうですね、見たところ、十歳前後といったところでしょうか……」