「ユーリ様」

密やかなその声に、ユーリは剣をつかんで身構えた。

攻撃より防御、防御より逃走とクリムゾンには言われたが、相手が何者かもわからないうちから、逃げ出すわけにはいかない。

「ユーリ様」

若い男の声だった。

窓枠をつかんで、ゆらりと浮かび上がった黒い影にユーリが剣を向けたのと、厚く垂れこめた雲の切れ間から細い月が再び顔を出したのとは、ほとんど同時だった。