「あなたの伯父上は子福家で、世間に知られていない子供が何人もいて、中には兄上と同じ年頃の息子だっていると聞いています」

周囲の者に聞こえないように耳元でささやくと、セナはすがるような目を向けてきた。

「母上が……僕を殺そうとしているってこと?」
「まさか、ただの噂ですよ。でも、噂の種はない方がいい」

ささやきながら、ずり下がった兄の眼鏡を持ち上げてやった。
この先、兄が母親と伯父に対して疑心暗鬼になろうと、知ったことではない。

相手を脅すだけ脅した後、イリアは優雅に立ち上がる。

「うちの小姓がこちらの離宮に迷い込んだそうで、兄上には大変ご迷惑をおかけしました」

さし出した手のひらに、セナがしぶしぶといった面持ちで地下室の鍵を落とす。

それを手の中に握りこんだイリアは、虫けらでも見るような冷たい一瞥を兄にくれた後、無言で身をひるがえした。