きみに守られて

一点だけ矢印のように
倉庫街の奥へ続いていた、
血液の道筋を見つけ、
たどるように跡を追う。

静まり返った中で
勢い良く流れ出す水の音だけが
聞こえて駆け足になる。
ユリツキはガタガタと震え
水道の蛇口真下に横になり
膝を抱えて水に打たれていた。

「母さん・・・母さん・・
僕バカじゃないよね?バカじゃないよね?」
途切れ途切れで呪文のようにこぼれていた。

見つめる優里。

優里の気配に気づき
臆病な獣のように這って逃げ出すユリツキ。

「待って大丈夫よ、逃げないで。
私は大丈夫。私は何もしない。
あなたは悪くはないのよ、
私を守っただけなのよ
あなたのせいじゃないよ」

「僕はバカじゃないよね?」
幼児言葉で彼女に聞く。
水道水で濡れきった体を
背後から抱き寄せ慈愛に満ちた抱擁をする。
「僕バカじゃないよね?」

「そうよ、
君は馬鹿なんかじゃないよ」

己自身が行った殺戮に耐えられず、
幼児期へ後退していた男。

「あなたのせいじゃない・・」

生まれてからずっと聞きたかった言葉、
誰かに言って貰いたかった言葉
(あなたのせいじゃない・・・)

大島優里の体から流れてくる
体温のぬくもりが安堵感を与え、
我を取り戻す。
「ごめん、もう少しこのままでいいかな」

「はい、いいですよ・・」