きみに守られて

「大島さん、頼みがある、
ぼくが車を出たら
思いっきり体を伏せて絶対外を見ないで欲しい・・
ぼくがまた車に戻ってくるまで
じっとしていて、いい?」

遅かれ早かれ
決意しなければならならい事があった。
ここには生易しい現実はないのだから。


優里は「はい」とだけ応えた。


ドアを開け、
表に出て拳銃を構えた十数人以上の警官の前にユリツキは立つ。
紺色の制服は鉄壁のように現実の人数よりも
三倍も四倍もの人数に映った。

「両手を頭の上に置け!」

映画の世界だ。

自分自身がそんな事を言われるとは
思ってもみなかったユリツキは少し笑った。

警察署長と名乗った紳士風の男は
拡声器から銃に持ち替え、
神経質そうに頷きながら
同じ位置から同じ位置を往復していた。
頭の中で
もう一人の自分と楽しく雑談しているような姿だった。

周りの警官に促され
ユリツキに気付いた警察署長は、
アヒル口を一層突き出し

「観念したか犯罪者め!」
スーツ姿には似合わない金きり声で言った。
勝てると解っている掛け率の高い
イカサマ賭博に大金を賭け、
采の目が並ぶのを待つだけの顔をしていた。

「天誅だ!天誅!」

銃を構え近づきながら叫ぶ警察署長の鼓膜には
正に自慰行為の交響曲が
流れているようであった。


ユリツキはうつむき、
なにかぶつぶつ言いながら歩を進める。
(まず一人なんだ・・・)

銃口がユリツキの眉間に食い込むところで
二人は対面した。

「正当防衛という事で恨むなよ」

カチカチと金属が擦れ弾かれるような音、
撃鉄を上げる音に武者震い似た声で言った。

「まず一人・・・」
ユリツキはうつむいていた顔で
目玉だけを上げキッと睨み言っていた。

警察所長は拳銃の銃低で
こめかみをツボでも押すかのように擦りながら
「何を言ってるのだ?」
「まず一人、まず一人・・」

まるで自分自信に
催眠術でもかけているような呟きであった。