きみに守られて

(どこだよ!!)

自身への苛立ちからか、
心臓に違和感を持ったのか、
ユリツキは知らぬ間に
左胸を握り拳で何度も打ち叩いていた。

その時、
狭い路地の方から
微かに絹を裂くような悲鳴が聞こえた

(叫び声?)

声ではなかったのかもしれない、
空気の振動を感じ取ったのかもしれない。

鬼気迫る集中力で
ユリツキが感じた気配の方角へ
全速力で向かう。

車ニ台がギリギリすれ違う程度の路地、
その道の真中に
腰を抜かした状態で
大島優里は座りこんでいた。


「大丈夫?」
憧れの人にあっさりと
戸惑い無く言葉をかけていた。

だが、彼女はユリツキに気づかず、
ある一点を脅え見ている。

目先を追い息をのむ。

彼女が所属するはずの
事務所の入り口に、
一人の少女が首を吊っていた。

精気があれば美しいはずの少女は、
無残で恐ろしい形相で、
白目をむきぶら下がっている。
舌がどす黒く下がりきり、
細い首が異常に長い。
震える大島優里の肩をユリツキは
恐る恐る掴む。
その時に初めてユリツキの存在が
認識される。

「あなたは誰?」

その目は精気を失いそうで痛々しかった

「とにかくここから離れよう」

始まりの会話、
最悪の場面での出会いだ。