きみに守られて

頭が半分潰れ手足が意外な方にむき、
うつ伏せで転がっている。
作り物ではないその物体は
異臭が証明していた。
ざわざわ動く蛆虫が恐怖を与える。
ユリツキは胃の内容物が止められずに吐き出す。
始めて見る腐乱死体。
飛び散ったユリツキの嘔吐物に

「うわ!きたねぇなぁ、死ねよお前!」
数人の人間が獣を思わせるような
だみ声で叫んだ。
「うわ!こんなトコで吐くなよバカ!」
「きたねぇ~」

(なんでだ?
死体よりこっちが汚いのか?
なぜこいつら平気なんだ?)

「人間の死体があるんですよ?
なんで平気なんですか?」

「ば~か」

「お前、死体見たことないのか?」

「ギャハハハハー」
大声で笑う若い女もいた

訪ねても訪ねても
「うるさい!」
「近づくなよ」
「こいつ、おもしれぇ~」

いつしか罵声の渦の中で
ユリツキは一人青ざめていた。
それでも執拗に聞き続ける
「人が死んでるんだぞ!死体だぞ!」



「お前、頭オカシイのか?
今時、田舎者だって騒がないぞ、
これぐらい臭いくらいで。」

「この辺は事故が多いから、
こいつも車に跳ねられたんだよ。
警察が身内に連絡しているハズだからよ、
このまま放置してあるって事は
引き取るのイヤなんだろ身内もよ。
しかしダセーなお前。
どんなド田舎の山の中から
出てきたんだよ?
なんかお前殺してぇ気分になってきたよ」

ユリツキは腹を蹴り上げられた。
痛みは感じなかった。
それよりも
こみ上げた自分の胃液と
悪臭の物体が衝撃的だった。