きみに守られて

そんな小六の夏休み、俺は・・
ぶどうの皮がツルってむけるような
感覚で家出したんだ。
理由は分からない。
思い出せない。
あんな時代だから
理由なんてどうでもいいだろうけどさ。
ただ、その日オヤジに殴られたとか
お袋に冷たくされたとか、
そんなんは、確か無かった。
本当にツルっ!て、感じだった。
家出した俺は
神社の階段の下で一夜を明かした。
あ、あの山奥の神社じゃ無いよ、
もっと民家に近くて大きい神社。
俺は、一人、暗い神社の軒下で、
笑っちゃうくらい
素晴らしい将来の想像ばかりしていた。

飲み込まれそうな暗闇で
明るい未来を想像するって
人間の防衛本能なんだろうね。

凄いね人って。

でね、沢山想像したんだけど、
その中の一つだけ
今でもしっかり覚えている
夢物語があるんだ。
ちょっと言うのは恥かしいんだけどね・・。
俺さ、
スッゲー明るい家庭を作った未来を
想像してたんだ。
綺麗な奥さんと
可愛い子供がいる家庭。
俺は子供に自慢するんだ。
豆腐半丁だけで飯が食えるんだゾって。
それで子供が俺に挑戦したがって、
二人で競争する。
半丁で飯何杯食えるかってね。
そこに台所に居た綺麗な奥さんが来て、
俺が叱られる。

”変なことしないで!”って
笑顔で叱られる。

暗闇で、
そんな想像をしながら、
俺は一生懸命寝る努力をしていた。

そう・・その奥さんの顔がユリに似ている」

ユリツキは
一拍置くように車外へ目線を置く。

優里の髪が風に喜んだように舞う。

気持ちを整えた様子のユリツキ。

「だから、今、
その妄想が全部実現したような
楽しい気分だよ、俺は幸せだ」

照れくさそうにうつむきユリツキ。

「だから、ありがとう。
ユリ、側に居てくれて、ありがとう。」

「いろんな出来事・・あったね」

「そうだな」

「私とした約束、憶えてる?」

「しっかりと憶えているよ」

優里はユリツキの手を
聖母に祈る時のように
握り締めていた。

カタン!、カタン!、
カタン!、カタン!、と、
電車の足音が
二人の会話を遮るように、
忙しく大胆に、
そして軽やかに響いていた。