きみに守られて

「あんな父親でも良心ってものが
あったってわけですか・・」

閉め切った車内の空間の沈黙が
一層重い空気を立ち込めさせていた。
与一郎が言う

「今から話す事は
直ぐに忘れてもらってかまない」

一呼吸おく。

「私と出会った当時、
井上健治は言った。
港に浮かんでいた赤子を拾ったと。
拾った日に拾ったことを忘れたと。
私に言った。」

「それじゃ正樹は?」

「そうだね・・・」

会話がとぎれた。

与一郎が弱弱しく
窓のレバーを回し窓開けると、
空気がなだれこみ、車内に
青々とした草の香りが充満する。

新鮮な匂いがした。

ユリツキに一つの疑問が生まれた。
何故、与一郎がこの秘密を
自分に打ち明けたのかというのが
謎だった。

然し聞き返せなかった。