ユリツキは見馴れぬベットにいた。
初めて見る部屋の模様。

開け広げられた窓から
陽に照らされた草花の匂いが
風に乗って部屋の中に運ばれた。

揺れるカーテンに誘われるように
窓際へ行く、
沢山の犬たちが
駈け回っている麗らかな景色があった。

「春なのか?」

曖昧な記憶が徐々に蘇る。
現実も事実も悪夢も、
そして絶え間無く語り掛けてくれた
”大島優里”の声も
頭の中で整理できていた。


「おかえりなさい」

懐かしい声に振り返る。

初めて会った頃とは違う
彼女が立っていた。

そこにいたのは
ユリツキが懲りもせず
何度も観かえした映画の頃よりも、
遥かに成長した女優大島優里だった。

「まだ少し寒いですよ」

アンサンブルのカーディガンを
ユリツキの肩にそっとかけた。

「ちょっと小さいかな?」

そう呟いた優里は
ユリツキの両肩に
手のひらをのせたまま
うつむき潤んだ瞳を刹那的に隠した。

「いや、暖かいよ、とても・・」