ハナミズキ~先に去ったあいつへ~

ばあちゃんは何もしゃべらなかった。
ただしくは、何もしゃべることが出来なかった…
ただ、天井の一点をずっと見つめていた。


ハエが飛んでいる。隣の患者さんにとまった。
こっちに飛んできた…
ばあちゃんは何も反応なかった。
おれは、すかさず追い払った。


何も出来ないばあちゃんといるのは苦痛ではなかった。
ただ、傍にいるだけで自分が安心できた。
ばあちゃんはどう思っているんだろうか?


時々、看護師にリクライニングの車椅子に乗せてもらい、
病院内を散歩した。
時々、手浴(手を湯で洗ってあげること)や
足浴(足を湯で洗ってあげること)もした。