「せんせっ」
               
子供らしい無邪気さを使って雨城先生の腕をとる。

「ぁ? 頭(カシラ)。ここ入っちゃダメって言ったろ」

「いいじゃないですか。どうせ先生以外ここ来ないんですし」

先生から離れて、少しふくれて見せる。新聞を読んでいた雨城先生がちらりとこちらを見るのを感じた。

「たまにゃ来るよ。別に仕事サボってるわけじゃねーんだからさ。ここ使うんだってきちっとした俺の権利だ」

新聞を見たままふてぶてしく言う。

「サボってない? 先生今サボってないって言った? 今、木曜日。15時30分。何の時間?」

「あー、おやつの時間、が終わった頃だな。頭。先生に話しかけるときは敬語使えって言ったろ?」

「答えは部活の時間。先生は茶道部の顧問。つまり先生はサボってます」

「子供みたいなこというなよ」

「子供みたいなのはどっちだ」

「おまえ」

「おまえだ」

「なにー、先生に向かっておまえとは何だ」

先生はこっちを見た。思わず視線をそらす。先生は笑っていた。

「先生こそ、生徒に向かっておまえっていいんですか?」

「ダメだ」

「じゃあやめてください」

そらした目をそっと先生に戻す。

「でも頭にならいい気がする」

「よくないです」

「いやでも、頭だぜ? 思うだろ?」

「思わないでください。っていうか同意を求めないでください」

「本当だ」

「あ、うん。ホントにです。ほら、行きましょう?」

今度こそ先生の腕をとって引っ張る。

「せんせ、ほら」

「しゃーねーな」

先生は面倒くさそうなふりをして立ち上がる。裏腹に素早い動作で新聞を畳む。

そうしてすぐに部屋のドアを開けて、いつも私を先に通してくれるのだ。