「思ったより、あっさりしてるんだね。

あんなに緊張して名前書いたことがバカらしくなってきたよ」



住民票を移す手続きもしてから市役所を出て、

帰り道を歩きながら、つぶやいた。



「…だな」


「うん。でも…」



あたしは繋いだ手を握りしめた。



「あたし、今から佐野千沙(さの ちさ)なんだね」


「ああ」



結婚式も何も、特別なことはしなかったけど、

あたしはもう佐野千沙なんだ。



「よろしくな、――奥さん」


その言葉に、パッと顔を先生に――祐輔に向けた。



真剣な先生の瞳と見つめあう。



「うん、よろしく。祐輔…!」



じわじわとこみあげてくる喜びで、胸がいっぱいになって、

あたしは祐輔に抱きついた。