彼女の名前を呼んでみる。

「…さん……」

心が騒ぎ、鼓動が早くなる。

「なんで出てくれないんだよ」

こんなの、旦那に聞かれたら終わりだ……

「なぁ、会いたくね?」

それでも情けなくすがるような言葉が、俺の口からこぼれ落ちて止まらない。

「俺、すげぇあんたに会いてぇよ。電話……」

無情にも、そこでブチッと電話が切れた。

「なんだよ……切れんなよ」

最後に会ったあの日の彼女の言葉がふっと頭をかすめる。

『ちゃんと大学行っている?』

大学にちゃんと行ったら、彼女から電話があるだろうか……と、急にバカみたいな考えが浮かんだ。

俺、ヤバくね? 大学にちゃんと行ったからって彼女に見えるわけではないのに、そんなことを本気で思ってしまうなんて。

それでも、そう思い込んでしまうと大学に行かずにはいられなかった。

まだ午後からの授業なら間に合う。俺は重い体にムチ打って、学校に行く支度を始めた。