冬、
と言っても雪が降るわけでもなく、
寒さに凍えるわけでもない気候の、
そんなある日、

京平が言い出した。

「なぁ、名前考えたんだけど」

千夏が風呂上がりにストレッチをしていると、
京平がいそいそと千夏の傍にやってきて座った。

「名前…?」

「この子の名前、千夏まだ考えてないんだったら俺がつけてもいいか?」

「…何、どんなの?」

京平はデレデレとした笑顔を浮かべた。

正直気持ち悪い。

「今、聞くか?」

「勿体振んないで早く言いなよ。それにするかわかんないけどね」

千夏の大きくなったお腹を満足そうに見つめて京平は言った。

「千雪」

愛しいものの名前を呼ぶような声色だった。

「千の雪で、千雪」

雪、というものを千夏は見たことがない。

冷たいものだと想像できるけれど、
踏み締める雪の感触だとか、触れたときに溶けて消える様子だとかはさっぱり想像がつかない。