京平の親指が千夏の頬を流れる涙を拭う。

「帰ろうか」

そう言われて千夏は京平に手を繋がれて旅館へと戻った。

掌に伝わる京平の体温はとても優しくて、また涙が出た。

旅館の入口、明かりの漏れる石畳の上で千夏は一度立ち止まった。

繋いだ手に力を入れると京平も止まって千夏を振り返る。

「どした?」

「あの、私」

京平の瞳が不思議そうに千夏を見つめる。

「千雪を見せてあげたい人が、いる」

京平の瞳が少しだけ大きく開く、

「お前、もしかして、」

「千雪の父親、今刑務所にいるんだって。私、その妹にどうしても、千雪を見せたい」

「父親はわからないって、」

「嘘ついたの。言えない相手だったし、」

「それってどういう」

繋いだ京平の掌が汗ばんでいた。
旅館から漏れる光が逆光となって京平の表情を隠していてよくわからない、
逆に、自分の表情は京平にどのように見えているのだろうか。

「千雪の父親は、私の仲間。彼は、…実の妹を愛してた」

京平の纏う空気が悲しく揺れた気がした。