「知らなかったでしょ。私は我慢しなくたって京平が好きだったよ。キスだってできる…」

くしゃくしゃな千夏の泣き顔なんて、何年ぶりだろう。

「だから、辛かったんだよっ。優しい京平は、絶対、我慢するでしょ!?心で私を拒否しても、絶対、我慢して、努力しようとするからっ」

「千夏っ」

「私は、京平が私を好きにならないこと1番よくわかってる」

真珠のように大粒の涙が千夏の目から次々零れて、
京平の掌を濡らした。

「そんな、まともで綺麗なお兄ちゃんの京平を、好きになったの、」

欲しいと思う反面、
京平にはいつまでもまともで綺麗なままでいて欲しかった。

千夏を女として見る京平なんてそんなのはすでに京平じゃなくて、
千夏の大好きなお兄ちゃんじゃなかった。

矛盾する気持ちは自分を追い詰めるだけで。

ようやく口にした本音を京平は真剣に聞いてくれていた。

「千夏、ごめんなぁ」

触れる温もりが全身の痛みを麻痺させる。

「千夏、本当に、でも。お前は俺にとって何より大切なんだよ」

知ってる。

残されたたった一人の肉親だから。

大切じゃないわけがない。

「京平、…ありがとう」

額に触れた京平の唇は、
熱くて、
苦い想いが胸に広がった。