寒い、
まるで冷凍庫のような電話ボックスの中で千夏は指先の感覚がなくなるまでに電話をかけ続けた。

冷たいコンクリートの上にしゃがみ込み、電話帳を抱えながら。

「あの、そちらに隆さんは…」

馬鹿みたいにそんな台詞を繰り返して。

手の色が明らかに紫に変化して来た頃、

<隆は、私の兄ですけど>

少しだけ戸惑ったような声で、ようやくそんな返答が返って来た。

「あ、あの、あなたの名前は…」

<皐月です>

よかった。
やっと見つけた。

千夏は感覚の無い手で必死に携帯電話を耳に押し付けた。

「隆さんは、今いますか?」

縋る思いで尋ねる。

<………>

「も、もしもし?」

長い沈黙が狭い電話ボックスを支配する。

<兄は今服役中です…>

中原皐月の苦しげな声は千夏に残酷な現実を突き付けるものでしかなかった。