今更ながらに、
何故こんな所に来てしまったのだろうと後悔した。

ほとんど手ぶら状態で東京を離れ、
よく知りもしない奴の家にあがりこんでいるという今の状況は千夏にとっては異例の、ありえない事態であった。

おまけに目の前にいるのは《京平の彼女候補》
だ。

「そういえば千夏さん、荷物はそれだけ?」

沈んだ気持ちで湯呑みに手を伸ばした千夏に亜紀が不思議そうに問い掛けた。

「ああ、道歩いてるの見つけて俺がそのまま連れて来たからね」

慎太郎が千夏の代わりに答えると、
亜紀が「ええっ!?」と声を裏返して叫んだ。

「でも一応合意は取ったし、問題ないよ?」

「問題ないってあんたね、すいません、弟が失礼なことをしちゃって」

「…や、別に」

慎太郎を睨み付けて叱る亜紀に彼女の本性を見た気がする。

その見た目から、第一印象として、
彼女は女の子らしい、優しくておっとりとしたような人間だと千夏は判断していた。

けれどそれは千夏の見誤りだったみたいだ。

ギターを弾いたり、
きつい物言いをしたり、
亜紀はどちらかというと千夏と同じ種類の《女》かもしれない。