「恭子さんって・・・結構ドジなんですね。何か可愛い」
変な声を上げて飛びのいた私に、王子はいつもと変わらない美しい表情でそんなことを言った。
それは、もう溶けてしまいそうになるような暑い暑い夏の日。
蝉の鳴き声が一瞬聞こえなくなった気がして。
さっきまであんなにも暑かったのに、かつてない羞恥心のせいで一瞬の内に血の気が引いてしまった。
男の人の胸って、何か暖かくて少し硬くて・・・
でも、とても良い匂いがした・・・
「あれ?恭子さん?照れてるの?ま、いいや、教室に帰ったらあるはずだから、放課後10円返しに行くね」
手の平にぽんと置かれた財布の感覚で我に返った私は、徐々に冷たさを失いつつあるお茶を握り締めて、ただ「うん」とだけ王子の背中に返事をしていた。
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