覚めない微熱だけ、もてあましながら



“これは、何かの縁だわ”

麻里は、廊下の壁に寄りかかりながら考える。

“電車の連絡通路ですれ違うなんて”

瞬きを、忘れている。

“家が近いわけでもないのに……。こんなに広い東京で、偶然すれ違うなんて”

全身が、ピクリとも動かない。動いているのは思考回路だけ。

“まるで、ドラマみたい”

口元が緩んだ。無表情から、何かを企むいつもの麻里に戻った。



………………



長かった一日が終わり、麻里はさっさと私服に着替え自社ビルを出た。

コートのポケットから携帯を取り出す。

アドレス帳を開き……さがしていた名前は、平田みか。みかに電話する。

「ハロー!」

テンション高めなみか。

「ちょっと、もしもし? みか、仕事終わった?」

「仕事? んなもん休んじゃったわよぉ~だ」

「何で?」

「だって、ダルいんだもん」

「はぁ~……相変わらずだね。まぁ、気持ちはわかるけどさ」

「でしょ~?」