覚めない微熱だけ、もてあましながら



「夏野さんに会った帰りに。電車、乗り換えの連絡通路で」

……。

「何かさぁ、香水つけてたよ。一瞬いい匂いがした。ホームパーティの時は……どうだったっけ? 香水つけてたっけ?」

「……つけてないよ。香水は……つけてなかったよ」

麻里は、ゆっくり噛みしめるように言った。

「あ、そうだっけ。そこまでは覚えてなかったからさ」

……。

「あ……、ごめん。そういえば麻里、今仕事中だよね。じゃ、切るね」

「え? う、うん……じゃ、またね」

麻里は現実に引き戻されたように、電話を切った。



………………



偶然が、巡ってきた。



斉藤明。

夏野裕也。



愛子にこの二人を引き合わせた。いかにも“偶然”を装って。“必然”だなんて誰も知るはずがない。知っているのは、神様だけ。

三人目のターゲットは、平田まことだ。麻里は、平田まことを三人目のターゲットに決めていた。だが、こっちからアクションを起こす前に、二人は外ですれ違っていると言う。