桜の下で ~幕末純愛~

季節は変わり、夏がやってきた。

桜夜の傷も痕は残ったもののとっくに癒え、女中仕事をこなす毎日だった。

ただ、斬られてから沖田は一層過保護になり、事情を知る者達の目も厳しくなった。

…守ってくれるっつーか、監視だよね、これじゃあ。

暑いなぁ。ちっとも風が吹かないし。

オレンジシャーベット食べたい。

仕事が一段落し、縁側に座って足をブラブラさせる。

「暇そうですね」

沖田がひょっこり顔を出す。

…出た、小舅。

「ん、そうだね。さすがに馴れたから。要領よくなったよ」

沖田は桜夜の隣に座った。

「暑いですね」

「うん。京都って元々暑かったらしいけど、クーラーとか扇風機ないじゃん?もう死にそう」

桜夜が手でパタパタ扇ぐ。

「確かに、クーラーは快適でしたね。たまに寒いくらいで」

「うん。買い出しもさ、暑くてキツいよ。私は軽い物ばっかだけど、一緒に行ってくれる人が可哀想。チャリほしいくらいだもん」

「自転車があったらそれは楽でしょうね」

二人は誰かに聞かれたら怪しまれる様な会話をしていた。

「オレンジシャーベットが食べたいよ」

「私はシュークリームですね」

このくそ暑いのに?

「ないもんねぇ」

「ええ、無理ですね」

すると二人の頭上から声がする。

「てめぇら、その怪しい会話はやめろ。するならせめて部屋でしやがれ」

ひじぃ…舅のおでましだ。

「普通の会話ですが?」

沖田がクスッと笑う。

「おめぇは…さぼってねぇで稽古でもしてろ」

「暑いから嫌ですよ」

小舅 vs 舅 さて、勝者はどっち?

「土方さんこそ副長なんだから、私に負けない様に机に向かってばかりいないで、稽古したらどうですか?」

「………」

カンカンカーン。小舅の勝利。

こういう時って私にとばっちりがくるんだよね…。

「おい、稲葉」

きたっ。逃げるが勝ち!

「あっ、休憩終わるんで。働いてきまーす」

桜夜はダッシュで逃げだした。

未来に帰る手がかりは分からないままだけど、こんな日々もいいのかな。

桜夜は走りながら呑気な事を考えていた。