桜の下で ~幕末純愛~

沖田は無言のままいきなり桜夜の着物を脱がせ始める。

「ちょっ、ちょっと。何すんの!」

抵抗する桜夜の手を掴み

「暴れると傷に響きますよ」

そう言うと桜夜の今度は手を放した。

「総司…いつ知ったの?」

「傷、見せてください」

無表情の沖田に桜夜は恐怖を覚える。

「………」

「何処を斬られたのです?見せなさい。裸にされたいのですか?」

こ…怖い。抵抗出来ない…。

桜夜は沖田に背を向け、恐る恐る着物を脱ぎだす。

前を手で押さえ、後ろに着物をずらす。

白い背中いっぱいに―右の肩甲骨から左の脇腹辺りまで、一本の線が引かれていた。

―あぁ…こんなに…―

沖田は桜夜の傷をそっと指でなぞる。

触れられた驚きと痛みで桜夜の体が強張った。

沖田はふわりと着物を肩に掛け、傷に触れない様に桜夜を抱き締めた。

「痛かったでしょう?」

「ん…」

「怖かったでしょう?」

「すごく…」

「花ちゃんを守ってくれて、有難う」

「…怒らないの?」

沖田は桜夜を離し、前を向かせる。

「怒りますよ。後でゆっくりと。桜夜が泣き出す程に。今は顔を見せて下さい。昨日は逃げてばかりでしたからね」

「ごめんなさい。余計な心配かけちゃいけないと思って」

沖田は半分呆れた様な顔をして笑った。

「桜夜に気を遣われるなんて、私もまだまだですね」

それ、どういう意味よ。

「無事でよかった」

ふいに真剣な顔になった沖田に桜夜はドキッとする。

「おっ、大阪はどうだった?」

思わず話をそらす。

沖田はフッと笑うと

「特に何もありませんでしたよ。私は桜夜に言われた通り、十分注意しましたからね」

と笑った。

…嫌味っすか。お相撲さんと乱闘騒ぎ起こしたくせにっ。

「さて、触れられて痛むならまだ寝てなさい。私はまだ話を聞かなければいけない人達がいますからね」

…ひじぃと左之さんと平助くんだ。

「そっ、総司っ。話を聞くだけだよね?」

「勿論です。桜夜が心配している事ではないですよ。寝てなさい」

沖田は部屋を出ていった。

…さすがにもう寝てらんないよ。どんだけ病人扱いすんの?

でも、おとなしくしてないとホントに怒られそう。

桜夜は部屋で静かに待つ事にした。