桜の下で ~幕末純愛~

「傷は然程深くない。傷を清潔にしておけば問題ないでしょう。しばらく安静に」

そう言って医者は帰って行った。

「お桜夜ちゃん、水を飲むかい?ちょっと待ってておくれ」

ナミは水を取りに部屋を出た。

も…問題ない?問題あり過ぎだよ。痛い。悶えたいくらいに痛いっ。

「おい、大した傷じゃないが、これから熱が上がるかもしれねぇぞ」

痛みで顔を歪ませた桜夜の横で土方が言う。

「寝れるなら寝ちまえ」

…無理っ!こんな痛くて寝れる訳ないじゃん。

桜夜が首を左右に振ると土方は部屋を出ていった。

ひじぃぃぃ、一人にしないでぇ。この際、ひじぃでもいいから居てよ。

少しするとナミが水を持って戻ってくる。

それに遅れて土方も小さな紙に包まれた何かを持って戻った。

「薬だ。何にでも効くから飲んどけ」

薬?も…もしや…石田散薬!?苦さがハンパじゃないって書いてあった気がする…。

桜夜はまた首を左右に振る。

「この期に及んでまだ反抗しやがるのか?あ゛?一人で勝手に出るわ、斬られるわ、挙げ句に薬は飲まねぇだと」

土方が青筋を立てているのが分かる。

「だっ…て…にが…い」

「てめぇ…」

土方は痛みで動けない桜夜の顔を掴むと無理矢理石田散薬を口に入れた。

うぇぇぇぇぇっ

あまりの苦さに声が出ない。

「みっ……み…ず」

必死に声を絞り出す。

慌ててナミが水をくれた。

何なのっ!石田散薬最悪っ!

俯せのまま土方を睨む。

「睨む力があるなら平気だろ。大人しくしてろ。まぁ、動けねぇだろうがな。ナミさん、少しの間、頼みます」

土方は部屋を出ていった。

桜夜の部屋から少し離れたところで原田と藤堂が土方を待っていた。

「あ、来た。土方さんっ。桜夜ちゃんは?」

藤堂が駆け寄る。

「相当痛そうだな。あいつの時代は平和だったらしいからな、刀傷に耐えられるか分からん」

「傷、残るだろうな…」

原田がボソッと言う。

「総司に知れたらただじゃすまないだろうな」

と、藤堂。土方が

「傷は隠し通せるかもしれねぇが、元々二枚しかねぇ着物が一枚おじゃんだ。勘のいい総司にゃ、隠せねぇだろうな」

と言うと三人は怒り狂う沖田の顔を想像してしまった。

「「「……………」」」