その頃、屯所では桜夜が一人で買い物に出た事がバレてちょっとした騒ぎになっていた。

「ったく、あの問題児はどうしようもねぇな。左之、平助、俺は様子を見てくる。俺より先に稲葉が戻ったら捕まえとけ」

土方が桜夜を探しに出た。

一方、桜夜はご機嫌で屯所への道を戻っていた。

屯所が近くなってきた頃、後ろから声がする。

「おねぇちゃーん」

花が手を振っていた。

「花ちゃん」

桜夜に走り寄ってこようとした時、花はドンッと誰かにぶつかった。

あっ!私の次は花ちゃんがぶつかってるし…。

桜夜は栄太郎が助けてくれたので、誰しもがそうしてくれると思い込んでいた。

花がぶつかった男は治安の悪い京に似合いの男―不逞浪士だった。

「童の分際でっ」

浪士は刀を振り上げる。

「花ちゃんっっ!」

桜夜は夢中で走りだし、花を抱き締め、地面に伏せた。

ザシュッ

背中が急に熱くなる。

屈まず、地面に伏せた為か、傷自体深くはなかった。

しかし、斬られた事に変わりはなく、両脇に向かって熱いものが流れ落ちる。

花は堪らずに泣き出していた。

花を守った事で逆上していく浪士。

「きさまっ」

再び、桜夜と花に向かって刀を振り上げる。

ダメだ、死ぬっ。

そう思い、ギュッと目を閉じた時―ドサリと桜夜の横に浪士が倒れ込んできた。

え?

桜夜が顔を上げると…

「土方さん…」

土方が恐ろしい顔をして刀を収めているところだった。

「てめぇは何してやがるっ!」

そう言うと桜夜を抱き上げ、花に「帰れ」と言うと屯所まで走り出した。

「ごめん…なさ…い」

桜夜はそのまま意識を失った。

土方が屯所に走り込むと、原田と藤堂が桜夜を見て焦りだす。

「医者とナミさんを呼べ!直ぐにだ!」

土方はそう叫ぶと桜夜を部屋に運ぶ。

うつ伏せに寝かせた桜夜の着物を破り、血を拭き取る。

傷に触れられた痛みに桜夜が意識を取り戻した。

「いった…い」

「当たり前だ。生きてるだけ有り難いと思え」

すぐにナミが駆け付け、少し遅れて医者が入ってきた。

桜夜は医者に手当てをしてもらい、ナミがそっと着物を着せた。