桜の下で ~幕末純愛~

部屋に戻ると沖田はもう一枚の着物を桜夜に渡す。

「木登りなんてするから着物が汚れてますよ」

あ…ホントだ。

「少しは着られるんでしたよね?手直しはするので着替えて下さい」

「はい。今度はちゃんとむこう向いててよ」

「はい、はい。何処かに飛んでいかれては困りますからね」

おぼつかない手付きで何とか着替える。

「何とかできた。直して下さい」

「初めからこれくらい出来れば合格でしょうかね」

沖田は手直しをしながら言う。

「さ、出来ましたよ。行きましょうか」

部屋を出て広間へ向かう。

改めて紹介されるのって緊張するな。

桜夜の顔が強張っていたのが分かり、沖田が少し笑う。

「堅くならなくても平気ですよ。まぁ、女の子が住むとなれば皆さん驚くでしょうが、私が預かったと聞けば誰も詮索しないでしょうから」

…総司の名前を出すと詮索しないの?ヤクザみたい…。

「あのさ、事情を知ってる人の名前を教えて。結局挨拶してないし」

「あぁ、そうでしたね。【山南敬助】【原田左之助】【永倉新八】【藤堂平助】この四名です。左之さんは顔、分かりますよね?」

あ…アノ人か。二度目に見た時は顔、微妙に変わってたけど。

広間の前に着く。

「いいですか?今度は本当に大人しく待っていなさい」

桜夜はここで待つ様にいわれ、沖田が広間に入って行った。

そんな風に言わなくてもちゃんと待つよ…。

広間にはもう皆揃っている様だった。

近藤の声が聞こえる。

「総司が戻ってきたのはもう皆、知っていると思う。実は、江戸の総司の家からある事情で、一人お預かりした女子が居てな。住み込みの女中をしてもらう事になった。皆、宜しく頼むぞ。桜夜殿、入りなさい」

近藤の声が桜夜を呼んだ。

広間がざわめいているのが分かる。

入りにくい…。逃げたい…。

躊躇しているとスッと中から開けられた。

「逃げないで、入りなさい」

沖田が小さな声で言い、桜夜を広間に入れた。

ざわめきが一層大きくなり、隊士全員の視線が刺さる。

うっわぁ。にーげーたーいーっっっ!

「稲葉桜夜です。宜しくお願いします」

挨拶しない訳にもいかず、桜夜は頭を下げた。