桜の下で ~幕末純愛~

「あ…総司」

「おはよう。とっくに夕飯の時間は過ぎてますよ。降りて来なさい」

総司、呆れ顔だ。

「はい。じゃあ、むこう向いてて」

桜夜がそう言っても、沖田は桜夜を見上げたまま動かない。

「総司、聞いてる?」

「聞いてますよ」

「聞こえてんならむこう向いてよ」

沖田はニヤッと笑う。

「どうしてです?」

久々に出たよ…黒沖田の笑顔。

「どうしてって…着物で降りるのってスゴイ格好になっちゃうから」

「へぇ、そうですか」

「へぇ、じゃなくてっ」

もぉっ。この顔になった総司は退かないもんなぁ。

だったら、呆れさせたついでにもっと呆れさせちゃえっ。

桜夜は寝ていた木の枝に立ち上がると、そのまま地面に向かって飛んだ。

「危ないっ」

沖田は目を見開く。

桜夜はストンと着地した。

「何をしているのですかっ!危ないでしょう!」

思わず大声をだす。

「このくらいなら飛べるんだ。運動神経抜群でしょ」

平気な顔をして答える桜夜に沖田は呆れて言葉が出なくなった。

「呆れた?」

少しバツが悪そうな顔になった桜夜に

「桜夜には負けましたよ」

と沖田は苦笑いをした。

「おお、そこに居たのか。探したよ」

縁側から近藤が現れた。

「なかなか桜夜殿に会えずに心配したよ」

「「近藤さん」」

「夕餉の時に正式に紹介しようと思っていたんだがなぁ。肝心の桜夜殿がおらんのでな、宴を開く事にしたのだよ」

…それって飲み会?

「近藤さんは何かしら理由をつけて飲みたいだけでしょう?」

沖田にそう言われ、近藤は頭を掻くと

「まぁ、そう言わんでくれ」

と笑った。

「ナミさんも帰ってしまったのでな、料理はほとんど無いに等しいが…酒はあるから心配せんでいいぞ。もう暫くで始めるので、遅れずに来なさい」

近藤はそう言って自室へ戻って行った。

「桜夜、まだ未成年なんですからね。飲んではいけませんよ」

沖田が釘を指す。

「大丈夫だよ。それより、夕飯終わっちゃったの?」

「そのようですね。さて、桜夜の運動神経の良さも知った事ですし、行きましょうか」

う…嫌味が入ってる。

桜夜は沖田に続いて一旦部屋に戻った。