桜の下で ~幕末純愛~

愛だの恋だのって考えてる場合じゃないんだろうな…。

桜夜は畳にゴロンと寝転がる。

ダメだ!ヘコむわ。

まだご飯の時間じゃないよね?

襖を少しだけ開けて外を覗く。

辺りは薄暗く、人通りもない。

…ちょっとくらい、いいよね?

桜夜はこっそりと庭に出て、桜の木に登った。

木の上なら誰かにバレる事もないよね?

はぁ、きっもちいーい。久し振りだなぁ、木登り。クヨクヨ考えてるのがバカらしくなってくるね。

小さい頃からよく家にある桜に登っていた。

よく危ないって怒られたっけ。

少し肌寒さも感じたが、吹く風の気持ちよさに桜夜はついウトウトと始めてしまった。

その頃、夕飯の時間前に桜夜を呼びに来た沖田は一人桜夜を探し回っていた。

―全く、一秒でも大人しくしている事ができないのですかね―

夕飯の時間を過ぎてもなかなか見つからない。

段々焦ってくる沖田。

―屯所から出る筈はないとは思うが…まさか―

すると庭先に土方が立っているのが目に入る。

土方には珍しく、穏やかな目をして葉桜を見つめていた。

「土方さん」

沖田が声をかけると土方は普段の表情に戻る。

「あぁ、総司か」

「桜夜を見ませんでしたか?夕餉の時間を過ぎているのに部屋に居ないんですよ」

沖田が困った表情をすると、土方はフッと笑い

「お前のお姫さんならそこだ」

桜の木の上を指す。

―桜夜―

「寝てるみてぇだな。三馬鹿並みの問題児だぞ、ありゃ」

「桜夜に木登りが出来るなんて知りませんでしたよ」

沖田はため息を一つついた。

「ま、あんだけ元気がありゃ、元の時代に戻るまでやってけんだろ。さ、飯食ってくるか」

そう言うと土方は庭を後にした。

―土方さんにあんな眼をさせるなんて、本当に問題児ですね―

桜の下に歩み寄り、桜夜に声をかける。

「桜夜。起きてください」

―相変わらず、寝たら起きないですね。落ちないのが不思議です―

沖田は小さな庭石を一つ、桜夜の付近の枝を狙って投げる。

耳元でコツンと木に何か当たる音に驚き、桜夜は目を覚ます。

「探しましたよ」

木の下には呆れ顔の沖田がいた。