桜の下で ~幕末純愛~

桜夜は馴れない着物に足を捕られ、思うように歩けない。

しかもアスファルトの様な歩きやすい道ではないので余計に歩みは遅くなる。

それでもはぐれてはいけないと小走りで沖田に付いていく。

ピタリと沖田が立ち止まり桜夜に手を差し出す。

「歩きにくかったですね」

たまにイジワルだけど、やっぱり総司は優しいな。

「ありがと」

桜夜は沖田の手を取り、今度は二人、ゆっくりと歩き出した。

「ここですよ。桜夜の好きなプリンはないですけど、ここの団子は美味しいですよ」

そう言うと沖田は店に入る。桜夜もそれに続いた。

「おや。沖田さん」

店に入ると主人らしき人が驚いた声を出す。

「ご無沙汰していました」

沖田は店の隅に腰掛け、桜夜も座る様にと手招きした。

「今日は随分別嬪さんを連れてますね。いつものでいいですか?」

「はい。今日は団子を一皿余計にお願いしますね」

「分かりましたよ。少々お待ちを」

主人はそのまま奥に戻っていった。

「いつものって、総司、そんなに通ってたの?」

「ええ。巡察の合間にね」

…それってサボりってやつだよね?

暫くすると団子が二皿運ばれてきた。

「わぁ。おいしそう」

「でしょう。さ、食べて下さい」

「いただきま…」

桜夜が食べようとすると、奥からまた主人が二皿持ってくる。

そしてまた…次から次へと団子の皿が桜夜と沖田の前に並ぶ。

………ナゼ?

「どうしました?食べましょうよ」

沖田は満面の笑みだ。

「あ、もしかして一皿じゃ足りないですか?私のはあげませんよ」

「…これ、総司が全部食べんの?」

「勿論です」

いやいや、限度ってもんがあるでしょ、普通。

「総司、あっちでは我慢してたんだ」

いつもシュークリーム一個だったし…。たまに私のプリン盗んでたけど。

「ええ。一応、居候でしたからね」

モグモグと次々に団子は沖田の口の中に消えていく。

それ見てるだけで胸焼けしてくるよ…。

「食べないなら私がいただきますよ」

そんだけあってまだ私の分まで?

「やだよ。食べるよ」

一口食べる。

「あ、おいしい」

素朴な味だが暖かみのある味だった。

「でしょう?」

結局沖田は団子七皿を平らげた。