桜の下で ~幕末純愛~

「ゆっくりおあがりよ」

女中はそう言うと桜夜の横に座った。

「はい、ありがとうございます」

優しそうなおばちゃんだな。何かホッとする。

「あの、私、稲葉桜夜っていいます。しばらくお世話になります。よろしくお願いします」

桜夜が挨拶する。

「あぁ、聞いてるよ。沖田さんが預かってきたんだろう?私はナミだよ。通いで女中をしているんだ。お桜夜ちゃんと同じ江戸の出さ」

ナミさんか。お母さんみたい。

「私も丁度お桜夜ちゃん位の子がいてねぇ。まぁ、息子だが、江戸に置いてきたもんだから…お桜夜ちゃんが嫌でなければ頼っておくれよ」

「はいっ。お願いします」

話ながらも桜夜の箸は進み、あっという間に完食した。

「ごちそうさまでした。片します。どこで洗えばいいですか?」

「いいんだよ。ゆっくりおし」

ナミは桜夜の手から椀を取ると手早く片付けていった。

何か悪いな…。これじゃホントにタダ飯食らいだよ。やっぱりお手伝いしなきゃ。

「ナミさん。お手伝いしたいんです。何かやらせて下さい」

洗い物をしているナミに話しかける。

「桜夜ちゃんは土方さんの小姓と聞いてるよ。いいのかい?」

あ、そっか。そうなってるんだ。

「でも…特にやる事ないみたいです…。私も部屋でじっとしてるより、体を動かしてたいし」

「いいんじゃないですか?」

突然、後ろから声がした。

「総司!おかえりなさい」

思わず満面の笑みになる桜夜。

戸口に凭れる様にして沖田が立っていた。

「ただいま。土方さんに聞いたらここだと言うのでね。それより、いいんじゃないんですか?ナミさんのお手伝い。桜夜も気が紛れるのでしょう?近藤さんと土方さんには私から言っておきますよ」

「本当にいいのですか?」

ナミは不安そうに沖田に聞いた。

「はい。働かざる者食うべからずですから。ね、桜夜」

…確かに。ひじぃの様子じゃ何もさせてくれそうにないし。

「ナミさん、頑張りますからお願いします。総司、近藤さん達に言う時は私も連れてって」

桜夜はナミに頭を下げた。

「そうかい?じゃあ、明日からお願いしようかね」

「よかったですね、桜夜。では、早速報告に行きましょう」

桜夜と沖田は台所を出て先ずは近藤のところへ向かった。