桜の下で ~幕末純愛~

翌朝、桜夜を腕に抱いたまま目覚めた沖田。

―ふぅ、今は不謹慎な事を考えている場合ではないですね―

桜夜を起こさない様にそっと頭から片腕を外す。

手早く着替えると音を立てずに部屋を出た。

出たところで土方が待ち構えていた。

「おは早うございます。朝からそんなに私に会いたかったのですか?」

「ふっ。あいつはちゃんと寝られたのか」

「素直じゃないんだから。あいつじゃなくて桜夜ですよ。また桜夜がキレますよ。あぁ、でも土方さんに桜夜を呼び捨てにされたくはないので、桜夜にキレてもらった方がいいかな」

土方と歩きながら道場へ向かう。

「途中で起きてしまったみたいですが、その後はちゃんと眠りましたよ。ただ、心はまだ疲れてるでしょうから寝かせておきました」

「その異国語みてぇなのを使うな。何言ってんだか分かりゃしねぇ」

「あぁ、キレるですか?まぁ、怒るって事ですよ。久々に相手して下さいよ」

道場に入り、木刀を土方に渡す。

「のんびりし過ぎて鈍ってんじゃねぇか?」

「クスッ。腐っても土方さんに負けませんよ」

土方が我流の構えをする。

―この構え…おや?―

とっくに知った筈の土方の構え。

しかし沖田は未来でもこの構えを見てきた。

「おいおい、呆けてる暇があるのか?」

土方が先に仕掛けてきた。

沖田は難なくかわす。

お互いの木刀がぶつかり合う音が響く。

―さすがに向こうでの様に容易くは終わりませんね―

「本当に鈍って戻ってきたんじゃねぇのか?」

土方が鼻で笑う。

「まさか。遊んであげてるのが分からないなんて、土方さんこそ私が居ない間に遊んでばかりいたんでしょう?では、お望み通りに終わらせましょう」

沖田の目付きが変わった―その瞬間には土方の手から木刀が消えていた。

「ふん。変わりないか」

「当たり前です。頭の悪い稽古相手がいたのでね」

「そろそろ朝餉の時間か。行くぞ」

二人は道場を出た。

「私は一度桜夜の様子を見てから行きます」

沖田は部屋に向かう。

静かに襖を開けるとまだ桜夜は眠っていた。

―もうしばらくは寝かせておきましょう―

そのまま沖田は食堂に向かった。