桜の下で ~幕末純愛~

「ん。ありがと。…ごめんね、心配させてるね」

「桜夜は謝ってばかりですね。いつも言ってるでしょう?桜夜は悪くないですよ」

沖田が持ってきたおにぎりを食べる。

「あったかい。…おいしい」

「少しは元気がでましたか?」

「うん。まだどうしたらいいのか分かんないけどね。とにかく死なない様に頑張ってみる」

幕末っていう現実は怖いけど、総司と一緒にいたい。でも帰りたい。矛盾してるのは分かるけど…。

「桜夜が無茶しなければ何も心配ないですよ」

「うん。ねぇ?明日、ここの人達を紹介して。せめて私の事を知ってる人だけでも。さっき、全然見てなかったから」

「桜夜は笑っていた方がいいですよ。明日、ちゃんと皆さんに挨拶しましょう」

そう言えば、今は何時だろう?

桜夜は腕時計を見た。20時を過ぎた頃だった。

動いてるけど、合ってるのかな?

「ね、今何時?」

沖田に聞いてみた。

「戌の刻ですから20時頃ですかね」

「戌の刻?こっちはそういうの?難しそう」

「かもしれませんね。時計が動いてるならそれを頼りにした方がいいでしょう。あとは自然に馴れるしかありませんよ」

そうだ。私はこの時代に馴れなきゃいけないんだ。

「焦る事はありませんよ。馴れる前に戻れたらいいのですけど」

…戻る、か。総司と離れなきゃいけないんだ。

「そうだ、桜夜は土方さんの小姓となりましたから」

コショウ?こしょう?胡椒?

しかも何で天敵ひじぃ?

「こしょうって何?ってか、何で土方さん?」

「まぁ、表向き何かしら仕事をつけないといけませんから。土方さんは口は悪いですが、本当は優しいんですよ。まぁ、哲くんみたいなものですよ。哲くん程、頭は悪くないですけど」

哲…頭のよくなった哲?ひじぃが優しい?幸先悪いわ。

「小姓といっても表向きですから。まぁ、お茶を出したり、ちょっとした手伝いですよ」

「お手伝いさんって事?」

「そんなもんですね」

お手伝いさん?執事?メイド?おかえりなさいませ、ご主人様?

うわぁ、嫌だぁ。

「あからさまに嫌な顔しないで。土方さんも馴れれば苛め甲斐がありますよ。さ、少しは落ち着いた様ですね、今日は早めに寝なさい」

沖田は布団を敷き始めた。