桜の下で ~幕末純愛~

あぁ…もぉ、どうしよう。どうしたらいいか分かんない。

「ちっ、左之。山南さんと、残りの馬鹿二人を呼んでこい」

程なくして全員が揃い、土方から事情が説明された。

皆、驚きを隠せない。

桜夜は終始俯いたまま、一言も話さなかった。

―すっかり落ち込んでしまいましたか―

話が終わり、皆が解散し、沖田に連れられて部屋に戻っても桜夜は黙ったまま。

部屋の隅で膝を抱えて座っていた。

「桜夜。夕餉…夕飯の時間ですよ」

沖田が声をかけても動こうとしない。

「誰も桜夜の事を悪く思ってませんよ。沈む気持ちも解りますが、何か食べないと元気もでませんよ」

「…ごめんね」

「いいえ。行きますか?」

「ううん。今日だけ…今日だけヘコませといて。明日から頑張るから」

桜夜は沖田を見ないまま、小さな声で答えた。

「そうですか…」

―少しの間、そっとしておきましょう―

沖田はそれ以上触れずに部屋を出た。

沖田が部屋を出ると桜夜は堪らず泣き出した。

こんなんじゃダメだって分かってる。

今だけだから。今日だけ…。

明日からはちゃんと頑張るから…。

沖田は泣き出した桜夜に気付いたが、そのまま部屋を離れた。

「総司」

歩いていると土方から声をかけられた。

「あぁ、何ですか?」

「あいつはどうだ?」

「桜夜ですか?落ち込んでますよ。誰かさんの態度が酷いですからね」

「俺のせいにするんじゃねえよ」

沖田は溜め息を一つついた。

「全く見知らぬ時代へ来てしまったのです。少しは優しく接してください。桜夜は本来、明るく前向きな子なんですよ。せめてきちんと名を呼んであげてくださいね」

沖田はそう言うと土方と別れ、台所へ向かった。

辺りはすっかり暗くなっていた。

おにぎりを二つ握って部屋へ戻る。

「桜夜。灯りも点けずに…。さ、おにぎりですよ」

沖田は灯をつける。

「不安ですよね。私もそうでしたよ」

「…総司も?」

―やっと顔をあげてくれましたか―

「ええ。ただ、桜夜の方がもっとでしょう?急に不便な時代へ来てしまいましたしね。さぁ、少しは食べましょう」

桜夜におにぎりを差し出した。