桜夜はバイトに向かっていた。が、何となく落ち着かない。

ふと耳に手をあてると、ピアスがない事に気付いた。

はぁ。なんっかあがんない。ピアス忘れるし…頭、痛くなってきた。

足が思う様に進まない。

薬はカバンに入ってるけど…一度帰ろ。ピアスもしたいし…店長には悪いけど、遅刻しよう。

桜夜はバイト先に連絡を入れ、来た道を戻った。

家に戻り、部屋に入ると沖田にもらったピアスをつけた。

頭痛薬はカバンに入ってるよね?

カバンを持ったままリビングへ向かう。

妙に家の中が静まり返っているのに不安を覚える。

リビングに着いた時、目に飛び込んだのは着物を着て桜の木に立つ沖田の姿。

そ…うじ?

庭に駆け出した。

「総司っっ!」

―桜夜!?―

花びらは沖田の腰辺りまで巻き上がっていた。

「なん…で」

涙が溢れて止まらない。

「桜夜。ありがとう」

「嫌だよ…行かないで…」

―あぁ。だから最後は会わずに行きたかったのに―

桜に巻かれる沖田を見ていた桜夜はハッと思い出した。

「総司、竹刀は?」

「え?あ…」

―リビングの隅に置いておいたのに忘れてしまいました。後で怒るでしょうね―

「取ってくる!」

「桜夜?」

桜夜はリビングへ走り、竹刀を握ると再び庭へ走り出す。

花びらは胸の高さまできている。

桜夜は夢中で沖田に竹刀を差し出す。

それに手を伸ばす沖田。

二人の手が竹刀で繋がれた時、花びらは大きく渦巻き、竹刀を握っていた桜夜も巻き込みだす。

「いけない!手を放しなさい、桜夜」

沖田が叫んだ。

「えっ?えっ?」

状況が飲み込めずにいると、花びらはどんどん桜夜にも巻き付きだす。

そのまま花びらはさらに大きく巻きだし、やがて桜夜と沖田を包み

―二人は消えた―