桜の下で ~幕末純愛~

「哲くんは忙しないですねぇ」

―おかしな所で気を使うのですから―

「強引に連れてきて、勝手に帰っちゃうなんてっ」

まぁ、結果オーライだけど…。

「総司…観覧車、どうする?」

乗りたくなかったら帰らなきゃいけないよね。

「桜夜は?」

「え?」

「桜夜はどうしたいのです?私は桜夜と乗ってみたいですよ」

沖田は覗き込む様に桜夜を見てニッコリ笑う。

あぁ…これで何度目だろう。完全にヤられてるわ。

「それとも、桜夜は私とでは嫌ですか?」

そんなはずないって分かってるくせにっ。

「…乗る」

真っ赤になって一言だけ答えた。

「では、乗りましょう」

しばらく並んでいると桜夜達の番になる。

足元に気を付けながら乗り込んだ。

「外から見ていたのと違い、意外と揺れますね」

沖田はその不安定さに少し驚いた。

「これが上までいくのですね。景色がよいでしょうね」

「うん。すっごい高いよ!車がこん位。遠くの山も見えるだろうね~」

桜夜は指で形を作った。

「それは凄いですね」

観覧車はゆっくり上がっていく。

頂上に近付くと夕暮れの街がオレンジ色に染まっていた。

「絶景ですね」

沖田は外の景色に見惚れていた。

桜夜がふと別の車内を見ると、カップルが寄り添いあい、キスをしている。

うわっ、キスしてるっ。総司が気付かなきゃいいな…。

沖田との話しに夢中になっていて観覧車に二人きりという事を忘れていた。

ふいに我に返った桜夜は急に恥ずかしくなってしまった。

「どうしました?」

桜夜が急に黙り込んだので沖田は不思議そうに聞く。

「うっ、ううん。何でもない」

やっぱりやめとけばよかったカモ…。

どうしても意識しちゃうよ…あれ?私、いつからこんなに総司を意識してるんだろう。

―いつから総司をこんなに好きになったんだろう―

「何でもない様には見えませんよ」

そう言い、沖田はふいに別の車内に視線を移す。

―あぁ、そういう事ですか。それで哲くんは帰ったのですね―