桜の下で ~幕末純愛~

春が近付き、桜の木に蕾が見え始めると沖田は不思議な夢を見る様になった。

誰かに語りかけられている夢。毎晩、同じ夢を見る。

―そろそろ…なのですね―

沖田は“その時”が近付いていると悟った。

―桜夜には何と言えばいいのでしょうか。哀しませてしまう―

―ならば、いっその事…何も言わずに―

桜の花が七分咲きになった頃、沖田は哲也を呼び出した。

「どうしたんだよ、急に」

沖田から呼び出された事など一度もなかった哲也は戸惑った。

しばらくの沈黙の後―沖田が重い口を開く。

「桜夜を頼みます」

「―なっ」

哲也は突然の事に驚きを隠せない。

「何、言ってんだよ。冗談言ってんのか?」

―冗談で済めばよかったのですが―

「冗談ではありませんよ。私は…戻らねばならないのです」

「訳を話せよ」

「察してはいただけませんか?」

哲也は沖田の胸ぐらを掴んで睨み付けた。

「嫌だね!俺はバカだからな!説明するまで放さねぇよっ!」

―哲くんは本当に良い子ですね―

それでも沖田は黙っている。

「納得いかねぇよ。桜夜は知ってんのか?って、知ってる訳ないよな。じゃあ、桜夜に言いつけてやる!」

―前言撤回ですね。全くこの子は―

一歩も退かない哲也に根負けし、沖田は話し出した。

―武士はここで察するのが普通なのですがね―

「私は【小林総司】ではないのです。【沖田総司】と申します」

一年前に桜夜の前に現れた事から話す。

「―と、いう訳です。他言無用ですよ」

―哲くんの頭で理解できたのでしょうか―

桜夜の想いが分かっているのに…沖田も想っているのに…

お互いに伝えられない気持ちに哲也の目には涙が浮かんでいた。

「何で桜夜には言わねぇんだよ」

「哲くんでその反応でしょう?桜夜に話したらどうなるか分かりませんよ」

―何より私も耐えられるか…―

「分かったよ。桜夜には言わねぇ」

「ありがとうございます」

「しっかし、沖田総司がここにいるとはなぁ。沖田総司ってかっこよかったんだな!」

―あぁ、哲くんが私の画を一生見ない事を願いましょう―