桜の下で ~幕末純愛~

その日は朝からよく晴れ渡り、暑くもあったが心地良い風が吹いていた。

桜夜は珍しく調子がよく、布団から体を起こすと言いだした。

「お母…さん……ごめんね?……ありが…と」

桜夜が体を支えてくれた美沙子に言う。

「何言ってるのよ、このくらいで」

美沙子がクスッと笑った。

そこに哲也がやって来る。

「珍しいな。調子いいのか?」

「ん……かなり…ね」

桜夜が笑う。

「あら、哲くん。いいところに来たわね。私、買い物に行ってくるから、桜夜をお願いね」

そう言って美沙子は哲也に桜夜を頼み、買い物に出ていった。

「哲……美味しい…プリン食べ……たい」

突然、桜夜が言い出す。

「買って来いって?お前の好きなやつ?あそこ遠いじゃんか」

「今日は…調子…いいから……大丈夫」

桜夜の笑顔を見て安心した哲也は買いに行く事にした。

「…哲……ありがと…」

桜夜が言う。

「気味悪いな。熱でも出たか?」

ニヤッと笑って哲也は出て行った。

一人になった桜夜は最後の力を振り絞り立ち上がる。

やっとだね…

ゆっくりと自分の部屋へ向かい、タンスにしまわれていた着物を出す。

着物に着替えると髪を纏め櫛を挿した。

そして脇差を差し、次に苦無を懐に忍ばせた。

桜夜は一呼吸置くと、ゆっくりと髪紐を手に取る。

それを左手の薬指に巻き付けた。

準備できたよ…総司。

ふらつきそうになりながらも桜夜は庭へ向かう。

庭に出ると振り返り、今まで暮らしてきた我が家にお辞儀をした。

お母さん、ごめんね。

親より先に逝くなんて親不孝だよね。

一人にしちゃってごめんなさい。

いくら謝っても足りないよね…。

お母さんの子に産まれて幸せだったよ…ありがとう。

哲、こんな私を愛してくれてありがとう。

答えられなくてごめんなさい。

いつも頭に置いてくれた手、好きだったよ。

哲は哲として生きてね?もうひじぃじゃないんだからね?

魂が惹かれる人が必ず現れるから…幸せになってね。

桜夜は再び家に背を向け桜の木に歩み寄り、木に寄り掛かる様にしてゆっくりと腰を下ろす。

そして静かにその目を閉じた。