桜の下で ~幕末純愛~

家に戻ると哲也が待っていた。

ほんっとに…あんな事したのにどこまでバカなの……。

「おかえり」

哲也が笑う。

それを見た桜夜は少し困った様なホッとした様な顔を見せ笑った。

美沙子は客間に布団を敷いて桜夜を寝かせた。

「ここの方が桜夜の様子を見に来やすいでしょ」

これは…言葉のままを受け取っていいの?それとも…。

美沙子が出ていくと哲也が桜夜の脇に胡座をかいて座った。

「……うつる…よ」

「うつんねぇよ。バカ」

バカにバカって言われたくない…。

桜夜がクスッと笑う。

「まだ笑えてんならいいや。また来るからよ」

「…ん……ゴホッ」

哲也は一度ポンと桜夜の頭に手をやると、そのまま帰って行った。

そして春が過ぎ、余命と言われた一ヶ月も越えた。

哲也は毎日現れ、帰る時にはポンと頭に手を置いて帰って行く。

いつしか桜夜はそれが楽しみになっていた。

そして季節は夏を迎える。

もうじき桜夜が現代へ戻ってきた、その日がやって来る。

桜夜は数日前から同じ夢を見る様になった。

何かを語りかけられているが、よく聞き取れない。

この声は…お父さん?

……そう言えば…屯所で総司が聞いてきた事があったな…。

変わった夢は見なかったかって…。

何度も、何度も…不安そうな顔しながら。

この事だったのかな?そっか…きっとそうだね。

もうじき私にも“その日”がくるんだね。

不思議…死ぬのが分かってるのに、こんなに穏やかになれるなんて。

総司?結核…労咳って辛いね…。

私の自己満足だけであんなに頑張らせちゃってごめんね。

あの時は夢中でああするしか出来なかったんだ…。

お母さんも哲も私の為に頑張ってくれてるよ?

私もそれに答えなきゃ。

…辛いなんて言ってられないよね。

だからもう少し待っててね。

“その日”まで私も頑張るから。

そして桜夜は声の主を確めるかの様に再び眠りについた。