桜の下で ~幕末純愛~

「―なっ やめろっっ」

哲也が手を延ばすより早く、桜夜は匂袋に火を点けた。

チリチリと燃えていく匂袋を哲也は呆然と見ていた。

「なにしてくれんだよっ」

跡形もなくなった匂袋に哲也が怒りを露にする。

「それは ゴホッ 哲のじゃない ゴホ ゴホッ から」

「ふざけんなっ。お前に何の権利があるってんだよ」

権利あり過なんだ…。

「哲…もう止めよう。ゴホ いつまでも ゴホ ゴホッ 縛られてちゃ ゴホッ ダメだよ」

私みたいになっちゃいけない。

あまりにも真っ直ぐ桜夜に見つめられ、哲也は言葉を失う。

「さよなら ゴホッ」

桜夜は深く頭を下げると振り向かずに去って行った。

部屋に戻った桜夜はベッドへと崩れ落ちた。

はぁ~、歩くのも喋るのもこんなに辛かったんだね、総司。

哲…酷い事してごめんね。

けどね“形”が残ってると忘れられないものなんだよ?

匂袋があると多分いつまでも哲は前世に縛られる…。

哲はもうひじぃじゃない。河村哲也として幸せな人生を歩んで欲しい。

待ち続ける辛さを味わうのは私だけで十分。

憎んで…恨んで…早く忘れて。

暫く振りに歩いた桜夜は疲れ果て、そのまま深い眠りに落ちていった。

次に目が覚めた時にはもう日付が変わっていた。

体がダルいな…。熱、出てきたかのな…。

総司の看病してたお陰かな?自分がどうなっていくのかが分かる…。

桜夜は荒くなった呼吸を整えようと大きく息を吸い込んだ。

その時、胸が急に熱くなった。

息つく間もなく次々と出る咳に呼吸が出来ずに悶える。

次の瞬間、桜夜の口から鮮血が溢れだした。

息ができないっ。総司っっ。

桜夜は気が遠くなりながらもその終わりを待った。

永遠とも思える間悶え続け、落ち着いた時には気を失っていた。

それからどれだけ経ったのか、気が付いた時には血で染まっていた筈のシーツと服は変えられていた。

血がついてない…。

暫くぼんやりと考えていると部屋のドアが開く。

お母さん…

美沙子は何も言わず、桜夜の保冷枕を替えると椅子に座った。

「お父さんだけじゃなく、桜夜まで失うの?」

そう呟いた美沙子の目は悲しみに満ち溢れていた。